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水晶薔薇庭園館綺譚7 模擬試合(6月上~中旬)

「武道演習場までちょっとおいで」

 そういうメッセージが小さな幼竜によって届けられたのは、臨時講師の仕事を終えて、次の仕事に向かう途中の廊下でだった。
 相手は上司であり尊敬する相手でもあるトール師。
 どうやら心話で話すにはちょっと障害があったらしい。

 本当なら仕事が立て込んでいて、滅多なことでそんな呼び出すことがないのを知っているエル・フィンは不思議に思いながら、しかし邪魔されたことを不快に感じながら武道館へ足を向ける。

 まだ敷地内に居たため移動はそんなに大変ではない。
 しかしポータルから遠い場所にあるため、急いで次に行きたかった分不機嫌になる。

 出来れば今日中に一度クリスタルローズガーデン(略称クリロズ)の方に戻りたかったのだが、どうやら難しくなりそうだった。

 武道練習館の扉を開けるとたくさんの子供たちがいた。
 学校に来ている子どもたちの大半がいるのではないだろうか。
 子供たちと言っても下は7・8歳の子供から上は十代半ばまでだが、真ん中の闘技場を開けてぐるりと囲んでいる。
 さらに2階の閲覧席も鈴なりに見ていた。

 そして闘技場の真中に剣をもって困惑して苦笑しているトール師とアシュタール校長。
 無言でトール師を見ると事情を説明してくれた。

 どうやらアシュタール校長が先の大戦でトール師と戦友で、その時の戦いのすごさを生徒一同に吹聴したらしい。
 そのためトール師の剣の腕前が見たいという話になりどうやらトール師も引っ張り出されたようだ。

 つまり模擬試合を見せるつもりらしい。
 本格的な試合をするなら学校の武道館でなく、ちゃんとした闘技場のほうがそのために作られているため結界もあり安全だし確実だ。

「で、なぜ私が呼び出されたのです?」
 状況は理解したがそこが分からず訪ねる。

 そもそも今自分が忙しいのはこの目の前の人が新しい仕事をうっかり引き受けてしまったせいだ。
 
 本人は三箇所に常駐可能だからまだいいかもしれないが、こちらはまだ一人しか存在できないため、やたら忙しい。
 最も三人分のフォローなど頼まれてもごめんだが。

「ところが、試合の相手をしてくれる人がいなくてね」
 困った顔を見せながら、目の奥が笑っているのに気づいた。
 なんかいやな予感がする。

「剣術の教師がいましたよね?どうしました?」
「あっさり断れてしまったよ」
 そう言ってトール師は視線をそちらに投げかける。
 つられてこちらも目線をたどって、その断った教師たちを怒りとともに目を眇めて睨みつけた。

 トール師に穏やかに睨まれ、自分からも睨まれた教師が顔面蒼白で冷や汗をだらだら流しているのをしばらく眺める。

 確か何度かこの教師の授業を見かけたことがある。
 子供たちへの教え方が上手で、レオンに剣を教える際にもひそかに参考にさせてもらっている点もある。
 しかし確かにこの教師では今のトール師と対戦しても、いくら模擬試合とはいえ防戦一方にしかならないのは見て取れた。

 そもそもこんな展開になったのは校長が先の大戦の話などをしたせいだ。

 そう思うと思わずアシュタール校長も睨みつける。
 最もそんなことをしてもアシュタール校長は穏やかにほほ笑み、痛くもかゆくもないのは知っていたが、やはり気分的に睨みつけないと気が収まらない。

 仕方なしに荷物を場の外に置き、ため息とともに対峙する位置に置いてあった剣を手に取る。
 剣と言っても子供たちが怪我をしないように刃をつぶしてあるものだ。
 つぶしてあると言っても私たちのレベルに行くとそれでも十分に殺傷能力があり危ないのだが。

(とりあえず仕事の方はこちらでなんとか融通をつけておくから)
 トール師からそう心話が届く。
(ありがとうございます)
 そう返して剣を構える。

 正式な試合開始の所作を憮然としたままにこなし、試合を開始する。
 いつもと同じようにこちらから先に切り込んでいく。

 背後でわあっと歓声が上がったのは、自分が教えた事のある子どもたちだろうか。
 確かに剣を使えることは一度も言ったことはなかった。
 そもそもそんな必要も感じていなかった。

 二合三合と切り結ぶうちにトール師の表情が少し険しくなった。
 どうやらこちらがかなりやる気がなく、手を抜いているのが分かったのだろう。
 それでも通常のレベルよりは動きは早く無駄はないレベルなのだが。

「エル・フィン」
 少し間をとるために飛び退った時にトール師にそう呼ばれた。

「それでは、生徒達に見せる意味がないだろう?
思いきりやっても生徒たちに被害がでないように、教官達が結界で食い止められるから思いっきり来なさい」

 どうやら本気でやるとエネルギー波により周りに被害が出ることを懸念していたのもばれていたようだ。

(それに、レオンが来ているよ)

 そう心話が届き、思わず眼をみはった。
 周りの気配を探ると確かに左後方にレオンのエネルギーを感じる。
 その隣にいるのはルークのようだ。

 まだ通い始めていないので学校見学に来たのかもしれない。
 朝、レオンを預けるときに珍しくルークが自分の予定を聞いていたのも思い出し、少しルークに対して腹を立てる。

「では、遠慮なく」
 そういうと思いっきりトール師に斬りかかる。
 
 もちろん軽く受け止められ、いなされる。
 逆に攻撃されたものを払いその流れでさらに斬撃を放つ。

 もちろん今は向こうもある程度手を抜いている。
 本気の試合ではなくあくまで模擬なのだから。
 それでも生徒達に最高のものを見せたいのだという思いやりに頭の下がる思いがする。

 同時にやはりトール師と対戦すると嫌でも気持ちが高揚するのを止めることはできなかった。
 かつて技量が拮抗していた時はもちろん、たとえ今は技量が向こうが上にあったとしても。

 本気でやり合える相手が限られてしまう以上、同等あるいは上のものと対戦することにどうしても血が騒いで夢中になってしまう。

「そこまで」
 ガンッという音とともに間にはいられそう両手に剣を持ちそれぞれの剣を受けとめたアシュタール校長に告げられた。

 どうやらお互いにある程度夢中になったため、外からの声に反応しなかったようだ。
 見ればトール師も苦笑している。 

「十分だよ。ありがとう」
 そう穏やかに言う校長に改めて敬意をもった。

 二人の間に割って入りとめるなど、出来る人の方が多くないのだから、やはりこの方はすごいと思う。
 同時にそれだけでこの校長のすごさを生徒たちに認識させることもできたに違いない。

 トール師と二人最初の位置について、正式な終了の所作をする。
 そうしたとたん、雰囲気などに飲まれていた生徒たちの歓声が沸き起こる。

 群がってくる子供たちに軽く謝りを入れて、荷物を持って武道館を出ようとするがなかなか進まない。

 人垣の外にレオンが目を輝かせて、何か言いたげに立っているのが見えた。
 しかしここからでは手も届かすことが出来ない。

(後で部屋に行くから)
 そう心話を届かせるのが精いっぱいだった。

 急いで次の仕事に向かうべき、武道館を出てポータルに向かった。
 

 それから数日経ってから校長から呼び出しを受けた。
 最もそれまで忙しくて学校に寄りつけなかったのもある。

 不思議に思って訪ねるとそこにはトール師が不満そうな呆れかえったような雰囲気を纏わせて立っていた。

「お呼びときいて参りましたが」
 とりあえずトール師は置いておいて、アシュタール校長に声をかける。

「済まないが、頼みたいことがあってね」
 と、全然そうは見えないにこやかな口調で校長は話し始めた。
 
「最近入学希望者が増えてきたのは知っている通りだ。ありがたい反面、人手が足らなくなってきたので困っている」
「はい」
 いきなり何を話しだすのかわからずそのまま静かに拝聴する。

 そもそも自分が臨時講師になったのも、改めて学ぶ必要が出てきた科目・最新の状況を知りたい講座があり、申請したときにその授業料の代わりという形で打診を受けたのが始まりだった。

 そのとき既に下の子供たちの方は常勤教師だけでは手が回りきらない状況になってきていた。

「新しく教師の募集はかけているものの、やはり質となるとそう簡単にはいかなくてね、色々とやりくりしているのだが」
 そういうと校長はこちらを改めてみる。

 ただ単に講師をする時間数増の依頼にしてはやけに改まっているのが気にかかる。
「そこで頼みがあるのだけど、剣術の方もお願いできないかな?
 先日の模擬試合で実力は申し分ないとわかったし、何より子供たちから是非という要望があってね」

 そこまで言われて思わず隣に居るトール師に「謀りましたか?」という意味を込めて睨んでみる。

 トール師は意味をすぐ理解したようで苦笑しながら軽く首を横に振った。
(誤解だよ。こちらにも話が来て困っているんだ)
 おまけにそう心話を寄こしたのでいったん誤解に対する謝罪は伝える。

 校長は百戦錬磨の戦士でもあり政治家でもあるため、こちらの反対意見はことごとく却下され、理論も突破され、結局「他の仕事に支障の出ない範囲内でなら」という条件付きで許諾するかなかった。

 校長室をトール師とともに辞去した途端、思わずため息が出た。

~・~・~・~・~・~

本当は長かったのでぶっち切りたかったのですけど、どーも話の節目がなくて(苦笑)
個人的にはもう一寸後のでアップしようかと思ったんですけど、上司の方が先にアップされていたので~。

どーせなら読み比べた方が面白いですよね。
ところどころ表現が違ってますが、一応同じ場所です。
よろしければ、「銀月物語75 思い出話」と読み比べてください。

*登場人物に関しましては「水晶薔薇庭園館綺譚について」をご参照ください。

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【銀月物語 75】 思い出話

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なに見え遠足三期生です。
参加した後に起こった色々な「上」及びその関連のことを書いてます。
妄想かもしれないこの話、楽しんで頂けるとありがたいです。

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