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紅緋古譚 37 標本2

 外で誰かの声がする。
 変態達とはちょっと違う、知っている奴の声。
 ふと意識が浮上する。

「おい、何故、こんなことになっている?」
「ちょっと…、待ってください」

 煩いな、でも気になるな。
 目を開けたいが、どうも眠くて目が開けられない。
 変だな。

「……今、睡眠レベルにまで強制的に、脳波を落としました。これで聞えても彼女には夢としか感知できないでしょう」
「そんなことまでやっているのか?」

 そんな会話が聞こえて、納得する。
 そうか、おれは今標本だから、そこまで関与されるんだ、と。
 生死全般はもとより、自分がいつ目覚めるかさえも。

「じゃあ、訊く。何を考えてお前は彼女のこんな状態に手を貸している」
「私が彼女を助けることができると思っているのですか?」

 責める声とそれを皮肉る声。
 変なの。
 そんな風におれの事を思う奴等、居なかったはずなのに。

 仲間でさえも、ただの同じ穴の狢でしかなかった。
 みんなうすうす感づいていた。
 生きて帰ってきた場合、次に戦場に出れないと判断されると、生きた標本になる。
 だから戦場で完全に死にたい、と思っていた。

「ああ、お前なら、自然死を装って、また事故を装って、彼女がこんな風になる前に、解放出来た筈だ」
「それこそ買いかぶりです!何処をどうやったら出来ると思うのですか?
 基本担当医が彼女をこの状態に仕上げました。
 私はただの助手です。
 更にモニターを見る側である私でさえ、何処でモニターされているか分からないのですよ。
 それこそ今、ここでさえも」
「それは無い。ジャミングをかけているから、この時間は平気だ」

 冷たい声がそう断言する。

 ああ、これ、“狼”の声に似ている。
 何で奴がこんなにおれを気に掛けるんだろう?
 ただのギブアンドテイクしかなかったはずなのに。

「こんな生きた標本にされるのが、彼女のためじゃないのは分かるだろう。
 それともこんな状態でも生きていて欲しいと思ったのか?
 こんな、地獄な状況でも。
 冗談じゃない、そんなこと俺は認めない。
 これは生じゃない、死でもない中途半端な状態が一番許せない」

 憎しみと悲しみ、そして相手を責めていながら、自分を責め続けていた。

「それが……、貴方の傷なのですね?」

 もう一人が断言する。
 悲しみと憐れみと、同情と理解と。

 何故そんな事をおれが感じ取れるのか不思議だったけど。
 でもそれらを確実に感じた。

 目を覚ましたい。

 ふとそう強烈に思った。
 見たい。
 誰がこんな会話をしているのか。

 目を開けようとするが、邪魔をするモノがあった。
 
 『眠れ』と言い続けるそれ。
 抵抗しようとするが、上手くいかない。

「私は……、手を下せませんが、協力はできます」
「……」
「何時でも相談してください」

 更に暗闇に引きずり込もうとする力が強くなる。
 駄目だ。
 引きずられたら。

 でもおれはそれに逆らえなかった。


 目を開けた時、そこには誰もいなかった。
 やっぱり夢だったのか。

 人工的な最小限の明かりと、色々な機器やモニターの明かり、そして生命維持装置の立てる電子音。
 空気や水の流れる音。
 それがこの世界の全て。

 時々意識が浮上するが、それらが変わったことは無い。
 偶に変態とか助手らしい人がいる程度だ。

 そうしておれは再び目を閉じた。

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なに見え遠足三期生です。
参加した後に起こった色々な「上」及びその関連のことを書いてます。
妄想かもしれないこの話、楽しんで頂けるとありがたいです。

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